Berkeley

2009

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→2008

オキナワの青年

2009年04月02日02:28

シカゴからの帰り道。
夜遅くにサンフランシスコに到着し、バークリーに向かうBARTという電車でのできごと。

席に座ると、ぼくの前の座席にいた大きな身体の青年がふりかえって、

「その時計、どこの時計?」
と、突然ぼくの腕時計について質問。

変な質問だし、夜も遅いし、彼はストリート(ブラック)系だし、どうやら酔っ払っているか、薬をやっているようだし。とにかくあまりかかわりたくない。でも会話は続く。

「SEIKOだよ」
「SAIKO? 安い時計でしょ?」
「いや、そんなには安くないよ」
「いくら?」
「400ドルぐらい」
「それは安いよ!」

けんかでも売っているのかなと思ったのですが、とにかくかかわらないのが上策です。でも会話は続く。

「どこから来たの?」
「日本」
「日本のどこ?」
新潟といっても分からないだろうし、説明するのも面倒なので、
「東京」
「あっ、東京は一番“アメリカナイズ”されているクソのような街だ」
「そうね」

明らかにからまれている。でも会話は続く。

「オレは4分の1日本人だ。オレのおじいさんはオキナワにいた。だからオレにはサムライとカミカゼの血が流れているんだ!」
「ああそう」
「サムライとカミカゼについて、お前は知っているか」
「まあ」
「サムライは人の首を切るんだ。知っているか。サムライは人の首を切るんだ○▽×…?」

会話がまずい。何と言えばいいのか。

「でもそれはずっと前の話だよ。昔のサムライはもういないんだ」
あれ?まずかったかな?

彼は眼を宙に泳がせながら、「…オキナワもトウキョウも“アメリカナイズ”されている。みんなクソだ! オキナワは占領されていたんだ!みんなクソだ!」

手に痛々しい刺青をしたその青年の顔を良く見ると、本当に日本人(沖縄人)の顔をしている。おじいさんは軍人で、おばあさんと沖縄で出会ったということらしい。とにかく自分の運命や世界全体に対して、持って行き場のない怒りが内向しているようでした。

「首を切るんだ!オサマビンラディンはすごいぞ。奴らも人の首を切る!」

これはまずい。刃物を持っていたら、勝てるだろうか。
ぼくはサムライ精神を忘れた日本人として殺られるかもしれない。
とにかく、彼の心に寄り添うことが肝心だ…。

すると丁度そこへ、車内を巡回する警察官が通りかかりました。本当に救世主が現れたようでした。

しかし、青年は警官を見ると、まるで条件反射のように、

「ハイ。こんにちは」と、とってもフレンドリー。なんだそりゃ。

でも、彼が隣の車両に行ってしまうと、また独り言のように、

「警官はクソだ。警官なんて皆クソだ!…」

彼は自分の家族のこともクソ呼ばわりしていたと記憶しています。
後から考えると、彼は日本人を見つけて、突如何かを伝えたくなったのでしょう。“アメリカナイズ”された自分自身を呪詛するような彼のことばをき いていると、こっちも辛くなってきました。貧困や差別の問題が、アイデンティティや人種問題と深く結び付いているアメリカの状況を垣間見た気がしました。

彼とは最後に握手をして別れましたが、彼が抱えていたと思われる苦しみについて、その後もずっと考えざるをえませんでした。