Berkeley

2008

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村上春樹さんのトークを楽しむ

2008年10月12日15:16

今晩は、私が所属する日本研究センター(CJS)主催の村上春樹さんのトークショーでした。会場は、キャンパス内の「Zellerback Hall」という大きな劇場です(写真右が会場)。千人前後は入る会場が満席で、チケットはすぐに売り切れ。ぼくは研究員なので、特別後でタダでチケット をいただき、ラッキーでした。ぼくの隣には中国人、その隣には台湾人のいずれも若い学生が座ったのですが、彼らは中国語で読んで、ファンになったと言って いました。とにかく世界中にものすごい数のファンがいる事実に改めて気がつきました。

先週大作を仕上げたばかりで、上機嫌の村上さんは、創作の秘密を惜しみなく語ってくださいました。会場はご本人の希望もあって、写真撮影厳禁なので、写真がなくて申し訳ないのですが、予想通りの飾り気のない気さくな人でした。

ぼくも「何か」を創り出す仕事をしているので、一見ジョークのように語られるすべてが、もう刺激的な話ばかりで、何というか、計り知れないほどの「霊感?」を与えられた気がしました。

ここで全部書くことができないので、三つだけ気がついたこと。

まず第一に、とにかく正直なこと。自分にも世界にも。これはすべての作家に当てはまることだと思いますが、作家村上春樹の最大の特長だと感じまし た。これは実は本当にむずかしいことだと思います。彼は「夢を見ない」そうですが、それは作家というものが、起きている間に夢を見て(操って)いるからだ そうです。つまり、起きている間は、自分の深部に到達することに全力をつかうので、寝ている間は夢を見る必要がないというわけです。

第二に、これと関連して、「普遍的である」ということのあり方がよくわかりました。正直、村上さんの英語は、5年も住んでいたとは思えないほど我 流というか、ジャパニーズイングリッシュです。インタビュアーの簡単な英語も時々理解できないこともありました。でも、言いたいことが明確で、内容が面白 いので、聴衆は本当にひきつけられます。彼はきっと、国境を越えて「people」や「readers」の心の奥底とつながっているというゆるぎない確信 があって、それをすっかり信頼しているのだと思います。だから「翻訳」に関する話でも、「原作のストーリーがしっかりしていれば、誤訳云々を超えて、読者 にきっと伝わるものがあると信じている」と語っていました。何というか、彼の中にある一種の「コスモポリタニズム」を強く感じました。

第三に、これも関連しているのですが、彼のことばは「温かい」ということです。終始一貫、自分や世界や人間の、shabby(みすぼらしい、ちっ ぽけな)所を愛しているということ。それが彼の文章に人々がひきつけられる理由のひとつだと思いました。自分は、29歳で作家になる前は、バーテンダー で、カクテルをつくったり、サンドイッチをつくったり、酔っぱらいを追い出したりしていた、それが自分が自分の喜びのために書いた文章が、あれよあれよと いう間に自分を作家にしてしまった。でも、言外に、その29歳の作家になる以前の「shabby」だった頃の時間をこよなく愛しているようでした。

今日の夜も本当に幸せな時間を過ごすことができました。ここは天国です…。