Berkeley

2008

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ハーレム、ミュージカル、ニューヨークの夜景

2008年12月17日03:24

今日はもう16日。昨日、バークリーにもどりました。ニューヨークからもどってくると、ここはなんて静かな田舎町だろうと思います。人間の感覚は、すべからく相対的です。

備忘録。12月12日(現地時間)は、イサム・ノグチ庭園美術館に行き、「Katz's」でパストラミを食べ、ニューヨーク大学、コロンビア大学 を訪れ、最後にニューヨークで働いているかつての教え子と十数年ぶりに会いました。教師の最大のよろこびは、立派になったかつての教え子に会うことです。 彼女は、大学の学部時代に単身でアメリカに渡り、大学・大学院とアメリカで学位をとり、今はニューヨークでソーシャルワーカーとして働いています。日本で 別れてから、かれこれもう十年以上アメリカで生活しているわけです。

学部時代と変わりない、清廉潔白で元気そうな姿をみて安心しただけでなく、職場の人たちとも会い、いかに彼女が信頼されて働いているのかを肌で感 じ取りました。「Medicade」という低所得者医療扶助制度に該当するアメリカ人の社会的弱者に、きめ細かいケアを提供するという仕事です。それを外 国人が、外国語で行うのですから、しかもそれを仲間たちに尊敬される形でやり遂げているのですから、本当に頭が下がります。

翌日、かつて彼女が実習などを経験し、また現在のまさにフィールドでもあるハーレムを探索しました。アフリカ系アメリカ人の低所得者が多く住む ハーレムは、彼女が卒業したコロンビア大学のすぐそばにあります。写真左は、政府が建てた低所得者向けの巨大な団地群です。治安が悪いことが有名で、夜に なると一人歩きはかなり危ないということでしたが、昼間に行ったせいか、あまりそういう印象はもちませんでした。

こういった団地群をはじめ、有名な「アポロシアター」や「The Studio Musium in Harlem」などを観て、単に「弱者切り捨て」の印象の強かったアメリカのイメージが少しだけ変わりました。「捨てる神あれば拾う神あり」というのがア メリカの良さだと言えるのではないか。現在ではもはや、むしろ日本の方が、「拾う神」がいなくなってしまったと言えるのではないのか、と強く感じました。

ニューヨーク最後の夜は、ミュージカル「シカゴ」(写真真ん中)。運良く一番前から2列目の最上等の座席を獲得できたので、まさに役者さんたちの 唾や汗が降ってくるような迫力で楽しむことができました。鍛え抜かれた、寸分の隙もない肉体が、力強く躍動するのがこのミュージカルの命だと思います。劇 場のスペースが限られているため、オーケストラを舞台の上に設置し、指揮者も含め、それを重要なアクターにしているという工夫も、功を奏していると思いま した。

この舞台をやるためには、まさに「歌って踊れる」完璧な能力が要求されると思いました。双方を兼ね備えるのがいかに難しいのかも、よくわかりまし た。「芸」の性質上、もっと音楽とダンスのテンポが早くてもいいと思うところも多々ありましたが、それはまた演出家の領分を侵すことになるのでやめにしま す。一方、セリフが少し早いところがあって、所々ききとれなかったのですが、つまりは、「むき出しの欲望がアメリカをつくった。善かれあしかれ。」という メッセージでした。本当にそう思います。

ニューヨーク最後の夜。「シカゴ」の後は、フィナーレとして、ロックフェラーセンターからの夜景です(写真右)。人間の欲望が無限に広がった、業 の深い、しかし美しい風景です。数々の夜景を観てきましたが、これほど横に広がった広大なものはありません。ロックフェラーセンターから観たので、エンパ イアーステイトビルも見えます。本当はかつては、その向こうにワールドトレードセンターも二つそびえ立っていたのでしょう。しかし、この欲望と虚飾の街 は、今ではもう何事もなかったかのように、呼吸を続けていました。





山田洋次「家族」を観て

2008年12月17日10:12

バークリーに帰り、さっそくやったことは、「映画を観る」ことでした。その日は、山田洋次監督の「家族」(1970年)です。寅さんの時と同様、大学の映画館には多くのお客さんが入っていました。

英文のタイトルが、「Family」ではなく、「Where Spring Comes Late」であることにも表れているように、舞台が最終的には北海道になります。つまり、映画は、長崎の伊王島から北海道に開拓民として移り住む家族の物語です。

お母さん=倍賞千恵子、お父さん=井川比佐志、おじいさん=笠智衆というおなじみのメンバーで、なぜか寅さんも脇役で登場します。

この作品で、おじいさん役の笠智衆は、その魅力∞です。さらに、倍賞千恵子の美しさも、他に例を見ないほど最大限引き出されています。1970年 の万国博覧会が開催された頃の、日本列島の高度成長期の真実が、その家族を通じて描かれます。作品から受けるメッセージ、いわば、「いつの時代も、どんな 困難な時にも、家族は不滅だ!」というメッセージは、山田監督の作品に一貫しているような気がします。

うがった見方をすれば、この作品は、アメリカの共和党支持者が大絶賛するのではないかという気がします。開拓民としてどんな困難にもめげず、家族が団結している様子は、アメリカ保守主義の原風景でもあると思うからです。

それでもやはり、心の中がポッと温かくなる、山田洋次マジックは不滅です。