Berkeley

2008

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バークリーの床屋体験

2008年11月26日10:28

日本を発ってちょうど3か月。来る前に短か目に切った髪もボウボウになってしまい、やむをえず床屋さんに行くことにしました。

さて、どこの床屋がいいのか、またどのようにオーダーすればいいのか、まるで見当がつきません。海外での散髪は、何しろ生まれて初めてのことです。

困った時のインターネット。「床屋 海外」とか「床屋 英語」などと検索をかけ、一応下調べをしました。

そうしたら、さまざまな失敗談が載っていて、大笑い。

日本語直訳で、「Natural please!」(自然にお願いします、のつもり)や「Not straight in my front hair!」(前髪はおかっぱにしないでね、のつもり)などと言って、明るい床屋のおばさんに「gotcha !」(わかったぁ!)と言われ、結局おもいっきりおかっぱ頭にされた人や、いきなり「ナンバーいくつ?」ときかれ、どぎまぎしているうちにわけも分からず 「ナンバー○○」の頭になった人とか、本当に面白いケースが載っています。相手に適当にまかせてしまうと、映画によく出てくる「謎の東洋人」のようになる こと必定です。

ぼくはぬかりがありません。そんな間抜けな英語はつかいませんし、まず店選びに慎重でした。店は日本と比べ本当に多様です。ぼくは大学の前に陣 取っている床屋に決めました。なぜなら、若い学生や教員をたくさん扱っているだろうから。また、どのエスニック系の人が経営しているか、また価格帯はどう か、男女ともに扱う店かどうか、も重要な要素です。

価格帯が安すぎると(たとえば、カット10ドル以下の店)、「ナンバー」の恐怖が待っている確率が高まります。また、お客も含めて黒人だけという 雰囲気の店もあり、そうなるとみんなチリチリ頭専用という気がして、これもリスクが高い。ぼくが選んだ店のすぐ数軒隣には、白人の若い一人の青年が格安で 切っている学生に人気の店と、インド系の比較的立派なお店があったのですが、白人男性は基本的にみんな短髪で、後ろは刈上げだということ、それから、イン ド系のお店は店員がみんな本当に濃い「インド系」で、入ってくる人を何だかことごとく睨んでいるようだったということから、敬遠しました。

ぼくが選んだ店は、アジア系のおばさん二人がやっているお店で、見ているとどうやら手際がよく、技術水準が高そうだったのと、価格が28ドルとリーズナブルだったのが決め手でした。

ぼくが入ると、一人は白人の壮年男性をカットしていましたが、もう一人は昼食をズルズル食べていました。「入っていいですか?」と聞くと、口をもごもごさせながら「どうぞどうぞ」「ここに座ってちょっとまっててくださいね」とウェルカムな雰囲気。

最初彼女は奥に入ってなかなか出てきませんでしたが、残りのご飯を急いで食べ、歯を磨いていたようです。音でわかりました。そして出てくると、 ちょっと驚いたのですが、鏡の前に立ち、楊枝で歯の掃除を始めました。ぼくは思わず「昼食中にごめんなさいね」と言うと、「いえいえ、それでは早速始めま しょう。」

ぼくはこれが一番通じるだろうという英語で、「適当に切りそろえてください。そんなに短くしないでね」と伝え、また「だいたい1インチ弱ぐらい 切ってください(センチは通じないことが多い)」「それから髪が多いので、すこしすいてください」と伝えると、実にぼくが思った通りに切ってくださいまし た。予習の成果です。刈上げ(trim)にもされず、白人のように超短髪にもならず、前髪も横に切りそろえられない方法がこれです。(役に立つ例 文:Please just tidy up, not too short. Middle scissors cut please. No clipper, please. Take about less than 1 inch off. I think my hair needs thinning a little. I would rather not have bangs.…etc.)

しかし! 彼女はいきなりバリカンでもみあげをすべて削除するではありませんか。「もみあげ?もみあげって英語でなんて言うんだあ!」と考えているうちに、ぼくのもみあげはすべてなくなってしまいました…。

まあ、ひとつぐらい失敗があってもいいでしょう。もみあげは英語で「sideburns」というのです。勉強になりました。

彼女にきいてわかったのは、まず、ヘアカットには、バリカンでやるものとハサミでやるものの大きな分岐がある。彼女たちの頭の中では、まずその二 つのどちらであるかによってその後の流れが違う。「ナンバー」はバリカン界の概念で、ナンバー1が超短髪(crew cut)、ナンバー2がミドル、ナンバー3が長め、ということらしいのです。だからまず初めに、No Machine ! Scissors(No Clipper) ! と伝えることがいかに大切であるかということです。ハサミでもバリカンは使いますが、それは脇を整えたりするためだけです。

「お名前は?」ときかれたので、「ヒロシです」と言うと、「ああ、ヒロシマね。覚えやすいわ。」ということで、ぼくはその店では「ヒロシマ」とい うことになっています。彼女は、おもむろに、すでに亡くなったお爺さんが以前日本にずっと住んでいて、うどんばかり食べて味噌が好きだったと言いました。 彼女は韓国系アメリカ人で15年前からそのお店で働いているそうで、そのお店自体ももう30年間営業しているんだそうです。また、親戚には「ユキエ」とか 「ケンイチ」とか、韓国人であるにもかかわらず二つ名前をもっている人がいることも教えてくださいました。

ぼくは言葉をつまらせて、「それは戦争の悲しい歴史ですね」と言うのがやっとでした。

この前の日系ハワイアンの方もそうですが、ここバークリーに来てまで、戦争の記憶や傷痕がひよっこりとぼくの前に姿を現すのは驚きです。今日もまさか床屋さんでそういう経験をするとは。

ところで、ぼくの後に入ってきた学生とおぼしき青年は、入ってくるなり「ナンバー・ツー」とやや強引に決められていて、思わずクスッと笑ってしまいました。