Berkeley

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市川崑「満員電車」を観て

2008年11月03日13:06

今日も夜は映画です。

しかし、映画館に行ってみると、誰も並んでいません。「ああ、市川監督はポピュラーじゃないんだな」などと思ったら…。

西海岸は、今日(11月第一日曜日)から夏時間が終わるのでした。ぼくの時計は午後5時。予定では映画が始まるはずで、入場しようと思うのです が、前の映画(黒澤明「羅生門」)がまだやっています。一方、チケット売り場の時計では4時。ぼくの新しい時計は狂ったことがないので、きっと売場の時計 が間違っているのだろうと思い、「前の映画が長引いているのですか?」ときくと、受付のお姉さんに、「あなたが今日で三人目です」と笑われました。

それで一度家に帰り、気を取り直して、「満員電車」(1957年)を観てきました。

いちばん大きな発見は、もう50年代の半ばすぎには、管理社会や精神病、近代社会の根源的なゆがみが明確にクローズアップされていたのだというこ とです。1956年には『経済白書』で「もう戦後ではない」という言葉が使われ、水俣病も発覚していました。そして、その映画が描き出す当時の現実は、ま さに今の中国映画の描く世界と底通しているということにも気づかされます。

生真面目な時計屋のせがれとして生まれた主人公は、父親から受け継いだ「独立」という価値の実現をひたすら実現するべく、一流大学(「平和大学」)を出て、「らくだビール」という一流企業に就職するのですが、人生はどんどんと狂っていきます。

戦後の「平和」や「独立」を嘲笑うかのような攻撃性をもった作品で、いちいち共感したのですが、愕然とするのは、「人間性の剥奪」を告発するこの ような試みが戦後一貫してなされてきたにもかかわらず、何も変わっていないということに気がつくからです。批判的精神は、何度も何度もくりかえし時代に戦 いをいどみ、その都度敗北してきたということ。その結果、現在があるということ。そしてまた、人間は、敗北の色が濃い、同じような戦いを続けなければなら ないということ。そういうことに気がつき、少し暗い気分になりました。

就職難も、不景気も、非人間的な労働も、別に昨日今日に始まったわけではない。私たちはずっとそういう中で生きてきた。そう思いました。

映画に1時間早く来て、「なぜ始まらないんだ!」と文句を言っている、アメリカ社会に不適合の自分と重ね合わせて、とてもタイムリーな映画でした。