平成23年度公開講座「映画の中の市民社会 Ola! aga !! (命の阿賀)―新潟水俣病をみて・ふれて」を開催しました

 2011年12月17日(土)新潟中央キャンパスで、オウム真理教信者の実像に迫る映画「A」、「A2」などで高い評価を受けたドキュメンタリー映像作家・森達也さんの講演会を開催しました。この講演会は、1999年から始まった本学主催の連続公開講座「映画の中の市民社会」の一環として行なわれたもので、今年は、映画上映や写真展も同時開催した新潟市との共催事業「Ola! aga !! (命の阿賀)―新潟水俣病をみて・ふれて」の締めくくりイベントでもありました。

 森さんの演題は、「生きる:その困難さの中で」というテーマで、約80人の聴衆を前に、映画「A」「A2」を見た人たちが漏らす「オウムの信者があんなに普通の人たちだとは知らなかった」という共通の感想を紹介しながら、「私たちは恐怖に襲われ、その原因が分からないと不安になり、災厄をもたらす異質なもの、異物として排除してしまう」と述べ、社会に蔓延する排外主義の危険性を指摘しました。さらに、「一方では同質のものだけがまとまる集団化の意識が芽生え、集団の中の少数者を『異分子』として迫害してきた歴史がある」と述べ、ナチスのユダヤ人虐殺やロマに対する迫害を例に、差別意識に警鐘を鳴らしました。

 1965年の新潟水俣病公式確認から46年、「阿賀の記憶」が次第に忘れられようとする一方で、多くの未認定患者が病に苦しんでいる現実があります。森さんは、「新潟水俣病患者への差別がいまなお続く背景には、事件や災害(公害)への恐怖が大きくなると、差別の対象を求める意識が働く。原因企業ははっきりしているのに、いまだに差別がなくならないのは、まさに私たちの問題」と語りかけていました。

 講演終了後、本学の越智 敏夫 教授の司会でディスカッションが行われました。会場には新潟水俣病を歴史としてしか知らない若い世代も目立ち、中学高校時代を新潟市で過ごした講師の言葉に耳を傾けていました。森さんは、「差別をなくすには、対象を知ることが一番大切。そのうえで視点をずらしてものを見てほしい。そこから多様な価値観が生まれる」という言葉で講演を締めくくられました。