AI時代における学修体系の再設計について

―― 社会学・行動科学・情報社会論・ゼミナール・卒業研究を貫く考え方 ――


最終更新:2026.0203
アップロード:2026.0130
図表修正:2026.0202
本文(情報社会論)修正:2026.0205
1年次から4年次まで、社会学・行動科学・情報社会論・ゼミナール・卒業研究が、問いを立てて検証し社会に接続する力を段階的に育てる全体像を示す図

AI時代を生き抜くための学修体系(概念図)
※本図は学修の全体像を示す概念図であり、履修条件・必修の順序を示すものではありません。




生成AIと大学教育

生成AIの急速な普及によって、大学教育を取り巻く環境は大きく変わりました。定義や理論の説明、先行研究の要約、さらには簡単なレポートの下書きまで、かつては大学で訓練されてきた多くの作業を、AIが短時間で代替できるようになっています。この変化は、大学で何を教えるべきか、何を学修到達目標とすべきかを、根本から問い直すことを求めています。知識そのものを覚えているかどうか、あるいは定型的なレポートが書けるかどうかは、もはや大学教育の中心的な評価軸ではありません。

では、AI時代において大学で身につけるべき能力とは何か。私が重視しているのは、問いを立てる力、仮説とインプリケーションを構造的に構築する力、そして現実の中でその妥当性を確かめる力です。これらは、AIがどれほど高度になっても、最終的に人間が引き受けなければならない思考の責任に関わる部分です。私が担当する社会学・行動科学・情報社会論、ならびに基礎ゼミナールから卒業研究に至るまでのゼミナール群は、この考え方に基づいて、一つの学修体系として設計されています。それぞれの科目は独立しているように見えますが、実際には問いの発見から研究としての完結までを段階的に経験できるよう、役割分担がなされています(私の講義・ゼミナールの関連についての全体像を示すものであり、履修条件・必修の順序を示すものではありません)。

1年次・2年次科目:『社会学』『基礎ゼミナール』『応用ゼミナール』

【社会学(1年次前期)】は、この体系の入口です。ここでは、私たちの日常の中にある人間関係や社会現象を、単なる出来事としてではなく、概念を用いて捉える訓練を行います。現実は複雑で、多くの要素が絡み合っていますが、どの概念を用いて切り取るかによって、見えるものは大きく変わります。社会学では、何を見るか、何を見ないことにするかという選択そのものが、すでに思考であることを学びます。これは、問いが成立する以前の、極めて重要な段階です。そして、その問いに対して自らの仮説を構築するところまで学びます。

講義科目と相互に支え合いながら進むゼミナール群は、これらの考え方を実践の中で使える力に変換する場です。
【基礎ゼミナール(1年次前期・後期)】では、レポートや発表資料の作成を通して、客観的に相手に伝えるための基本的な技術を身につけます。同時に、生成AIを用いながら、どこまでをAIに任せ、どこからを自分で考えるのかを意識的に区別する訓練を行います。ここでは、AIを禁止するのではなく、使い方を自覚化することが重視されます。

【応用ゼミナール(2年次)】では、ブレーンストーミングやグループワークを通して、実際の困りごとや関心を研究へと変換する経験を積みます。問いは、最初から完成された形で存在するわけではありません。他者の視点に触れ、議論し、試行錯誤する中で、徐々に洗練されていきます。応用ゼミナールは、アイデアと研究の違いを体感的に理解する段階でもあります。

3年次・4年次科目:『行動科学』『情報社会論』『3年次のゼミナール』『4年次のゼミナール』

【行動科学】は、社会学で立ち上げた関心や問いを、検証可能な形に落とし込む中核科目です。観察された現象を説明するために、どのような仮説が必要なのか。その仮説から、どのようなインプリケーションが導かれるのか。さらに、そのインプリケーションは、実際に観察・測定可能なのか。行動科学では、仮説演繹法を用いながら、思考の曖昧さを一つひとつ取り除いていきます。AIは仮説案を提示することはできますが、仮説の構造が適切かどうか、因果関係が混同されていないかを最終的に判断するのは人間です。その判断力を鍛えることが、この講義の目的です。

【3年次のゼミナール】では、行動科学で学んだ仮説構築や検証の方法を用いながら、実際に調査や実験を行います。前期には、これまで皆さんが学んできたことを持ち寄り、チームで問題解決に取り組む中で、研究・実践の進め方を体験的に身につけます。後期には、研究計画や自己紹介書の作成を通して、自分の関心や研究を構造的に説明する力を養います。これらは、卒業研究だけでなく、その後の進路においても重要な基礎となります。

【情報社会論(3年次後期)】は、個別の研究や問いを、より大きな社会構造や歴史的文脈の中に位置づけ直すことを目的とする講義です。 いままでの情報化社会は、単に経済成長を実現しただけではありません。卓越した需要創造能力によって需給のバランスを維持し、過剰生産や資源配分の不均衡が引き起こしてきた社会的不安を調整してきました。その延長線上には、最終需要としての戦争に依存せずに経済を回す仕組みを構築してきたという側面もあります。この点で、情報化と消費化は、人類史的に見ても重要な役割を果たしてきたと言えます。

しかし同時に、その強力な需要創造能力は、私たちの生活や判断のあり方を大きく変えてきました。必要かどうかを考える前に欲望が喚起され、立ち止まって選択する余白が失われ、環境や労働、対人関係の問題が構造的に生み出されていきます。問題は「消費」そのものではなく、需要が加速し続ける仕組みが、人間や自然の持つ限界と衝突し始めている点にあります。

本講義では、情報化社会を単純に肯定も否定もせず、その光と影の両方を構造として理解することを重視します。そのうえで、これほど高い需要創造能力を持つ社会だからこそ、どのような方向に使い直すことができるのか、皆さんの研究や実践は、その中でどのような意味を持ちうるのかを考えていきます。ここでは、研究を個人の関心にとどめるのではなく、社会的インプリケーションとして自覚的に捉える姿勢が求められます。

【4年次のゼミナール】ならびに卒業研究では、問いを自分で立て、仮説を構築し、検証し、その結果を社会的文脈の中で位置づけます。この一連の過程を、ゼミナールの他のメンバーと共有し、お互いの問いを一緒に考えることで、創発を起こすことを目指します。AIはこの過程の随所で利用しますが、最終的な判断と説明責任は、常に皆さん自身にあります。

まとめ

この学修体系全体を通して目指しているのは、正解を知っている人を育てることではありません。自分で問いを立て、考え直し、説明し直すことができる人を育てることです。社会が変化し、AIが進化し続ける時代においても、この力は失われません。むしろ、その重要性は今後さらに高まっていくと考えています。