学報94号
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学長式辞卒業式令和3年度 「アジアと共に」を忘れず日本の未来を切り開け本日ここに学士の学位を授与された情報文化学部7名、国際学部125名、経営情報学部163名の皆さん、ご卒業おめでとうございます。新潟国際情報大学の役員、教職員、関係者一同心より祝福致します。併せてご家族、ご友人、ご関係の皆さまにもお慶び申し上げます。新型コロナ感染者の数は、新潟県にあっては波があるものの依然高止まりの状態が続いております。そのような中ではありますが、まん延防止等重点措置の解除もあり、本日こうして昨年度に引き続きここ新潟市民芸術文化会館において卒業式を挙行できますことは、せめてもの救いということなのではないでしょうか。本日ここに参列の皆さんはどんな思いで式典に臨んでおられますでしょう。4年間の大学生活後半は不完全燃焼のまま過ごさざるを得ず、思い残すところが多かったという方もおられるかも知れません。他方で、制約が多々ある中でも精一杯の努力で所定の課程を修了したという達成感に浸っておられる方もいるかも知れません。思いはそれぞれでありましょう。我々教職員は採り得る中で最善の策を追求して来たつもりではありますが、皆さんの大学生活4年間における夢や希望に必ずしも十分に応えることが出来なかったのではないかという忸怩たる思いが残っております。皆さんにはコロナ禍拡大の兆しが見え始めた2年前に急遽立ち上げたオンライン遠隔授式に順応しただけではなく、自主的なグループワークへの取組みに発展させるなど新たな工夫を凝らしてくれた方々もおられました。「情報大学」の名に恥じない、皆さんのデジタル能力、習熟度の高さには感心させられること頻りでした。学修面のみならず生活面においても然りです。感染リスクを回避するため社会活動全般に亘る行動規制が敷かれ、経済活動の縮小が余儀なくされました。それに伴う世帯収入への影響やアルバイトの機会の減少なども相俟って、経済的な困難に対処しなければならなかった方も多かったことと思います。そうした状況に対して不十分ながらも本学のみならず国を挙げての支援が整備されて参りました。これらの支援制度を活用するなどしながら皆さん方はこの苦境を乗り越え、本日この日を迎えることができた訳です。ここで皆さんが大学生活を送ってこられたこの大学についてもう一度振り返ってみましょう。私たちの新潟国際情報大学は1994年に環日本海地域の中核都市新潟で、情報化、国際化社会で活躍できる人材育成を行うことを目的として設立された大学です。そのため対岸各国との交流など地理的条件を活かした教育を行うことに早くから注力して参りました。建学の理念として「日本文化と異文化の違いを理解し、国や地域を越えて情報文化に貢献できる人材を育成し、情報社会を先導し、国、地域、人間の文化を尊重しつつ国や地域を越えて人類の福祉向上に貢献する」と謳っております。本学はロシア、中国、朝鮮、そして日本の環日本海圏と呼ばれる国際地域圏の発展に寄与し、日本海側の中心ともいうべき新潟の県民、市民が強く要望している国際化と情報化、並びに地域文化振興という要請にこたえることを使命としております。業へも即座に、また柔軟に対応していただきました。単に新しく採り入れられたオンライン講義形際30年程前には日本海を東の地中海に見立てそこで私たちの日本の、そしてその中の新潟の、立ち位置から考えてみますと、この地に生きる私たちとしましては、「アジアと共に生きる」ということが考えられます。今現在世界中の耳目はウクライナやヨーロッパ東部そしてロシアに集まってはおりますが、近年中国の周辺地域への勢力拡張の動きに伴い海洋権益を巡り周縁諸国との軋轢が多発し始めております。世界の軸はまさに大西洋から太平洋に移りつつあると言えましょう。その時に日本はアジアと共に生きるということでこれからいろいろな恩恵を享受できるはずです。その場合、裨益(ひえき)することだけを考えるのではなく本当の意味で「アジアの国々と、そしてそれらの国の人々と共に歩む」という考え方が特に大事になると思います。それから「海に生きる」ということも考える必要があります。日本の面積は38万平方キロメートルで、世界61位に過ぎません。しかし、排他的経済水域EEZでは、6800の島を有する日本は、447万平方キロメートルで国土の12倍となり、世界第6位です。例えば中国は国土面積では世界第3位ですが、EEZでは日本のわずか二割です。そして、これに深さを加味した体積で比較しますと、日本は世界第四位になるとのこと。体積がたくさんあるということは、当然レアメタルなどの海洋資源とか漁業とかエネルギーとか、様々な宝がそこに眠っているわけです。メタンハイドレートの開発可能性を巡って新潟県でも議論がなされたのも記憶に新しいところです。 日本は海洋国家としてもっと真剣に「海に生きる」ということを考えていく必要があります。その時には、新潟はその地の利を活かして物流や情報の結節点になり得るはずです。実て新潟を対岸諸国との交流の拠点にして行こうという動きが起こりました。本学の設立はその流れに沿ったものと言えましょう。ちなみに、今から百年以上前に米国の海軍大学の校長を務め、現代史に、そして日本にも多大な影響を与えたアルフレッド・T・マハン(1840■1914)は「国力を高揚させるためには通商の拡大が重要であり、そのためには必然的に貿易品の生産が不可欠である」と説きます。これを実現するための要素として、当該国の地理的位置、資源の分布なども含めた国勢つまり産業力、そして国民性などを挙げております。こうした考え方に沿うようにして、周辺国のみならず世界中に勢力伸長を図ろうとしているのが先程も述べました中国。習近平国家主席が2013年に提唱したシルクロード経済圏構想は、かつて中国と欧州を結んだシルクロードを模して中央アジア経由の陸路「シルクロード経済ベルト」つまり「一帯」を再興、強化し、これにインド洋経由の海路、いわば「21世紀海上シルクロード」とも言うべき「一路」を加え、その中継地点にある港湾などのインフラ整備拡充を行うことで、陸と海から広域経済圏をつくろうというものです。2017年にはスリランカのハンバントタ港の中国への99年の租借が合意されました。これに対して「債務の罠」Debt ぶ批判が起こったのも記憶に新しいところです。ギリシアのピレウス港についても同国が債務問題で苦境に陥りEUが救済措置に手を拱いているタイミングに乗じて、2016年には中国遠洋海運集団(COSCO)が経営権を取得しました。2019年3月にはイタリアとG7で初めて一帯一路構想で協力することで合意に達しております。イタリアは中国との間でアドリア海のトリエステ港や西のジェノバ港の機能強化を図っていくとのこと。このほかにも中国はEU加盟国とは東欧圏を中心に13カ国と覚書に調印し関係を強化しております。話しは少し横道に逸れてしまいました。これまで国レベルの話として紹介して参りましたが、これは県レベル、都市レベルの話として考えてみても当てはまるものと思います。そこでもう一度新潟が置かれている状況という観点から考えてみましょう。日本は、総延長約35000キロメートルにおよぶ長い海岸線を有しており、諸外国と比べても、国土面積当たりの海岸線延長は非常に長くなっています。その中で新潟県の海岸延長は本土330・8㎞と離島303・9Trap”と呼               “8新潟国際情報大学 学報 国際・情報 令和4年4月発行 2022年度 No.1新潟国際情報大学学長 野崎 茂 

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