なまもの2010年
2010年8月22日
内子座(愛媛県内子町)
いろいろ事情があって、新潟と松山を幾度も往復した夏でした。で、たまたま日程があい、念願の内子座文楽。妻は二度目とのことで。人形は吉田文雀、三味線は鶴澤清治という人間国宝、太夫は切場語りの豊竹嶋大夫という方々が出演。年に一度の内子座文楽を楽しみにしている多くの文楽ファンの期待に応えようと皆さん、気合も入っていたのでしょう。とてもよい舞台でした。特に愛媛出身の嶋大夫さん、姿勢もきれいで声もとおる。お年をまったく感じさせず、すばらしい。
またもうおひとりの愛媛出身(というよりも渓筋なので内子の近くのご出身。ちなみに私もそのまた近くの卯之町で育ちました。どうでもいいことで申し訳ない)の吉田和生さんも「帯屋の段」のお絹を情感あふれる動きで操っておいででした。おそらくは文雀さんが遣われた中将姫の左も和生さんだったのではないかと思うけれど、そうなると和生さんは、今年の舞台のほとんどすべての時間、舞台に立っていたのではないか。頭が下がります。
演目はどういう経緯でこうなったかはわかりませんが、「継母による継子いじめ2連発」。その歴史版と人情版。ただ、話としては中将姫のほうはあまりに残酷。舞台そのものは良かったと思うけれど、ストーリーにはちょっとついていけんかった。
「帯屋の段」のほうは好きな演目なのでじゅうぶん楽しみました。前半は清治さんの三味線で呂勢大夫さんが語るチャリ場。楽しゅうございました。また、ほとんど微動だしない帯屋の長右衛門を勘十郎さんが丁寧に操ってました。
こういうレベルの高い舞台を内子座のような小さく、また趣もある場所で見る身の僥倖をまた噛みしめていました。それから、内子座の桟敷席は一枡6人という、ちょっときつい枡席だったのですが、僕らが座った枡は1人分は空席で、もうおひとりが途中でお帰りになったので、4人でゆったり見ることができました。普通だとあの面積に6人座って、文楽を3時間見るのはちょっときつい。なのでこれは本当にラッキーだった。
また、日本中が灼熱のこの夏、内子も盆地でさらに暑い。ところが公演前後に内子座のまわりで観客ときさくに挨拶を交わす人間国宝、切場語り。他の技芸員の方々もファンサービスにつとめてらっしゃいます。暑い中、ほんとにえらい。おそらくはこの内子での文楽を準備するには相当のご苦労が内子町、文楽協会、その他の団体の方々にあったのだろうと思います。良い舞台を見せていただいて、本当にありがとうございました。将来、この時期に愛媛にいたら、また行きます。
あ、最後にひとつ疑問。上演前の解説を咲甫大夫さんがしてましたが、もしかしたら彼はこの解説のためだけに内子まで来たのでしょうか。そうだとしたら、それはちょっとかわいそう、というかもったいないというか。不思議。