なまもの2009年
Conductor : Evelino Pido
Production: Mary Zimmerman
Amina : Natalie Dessay
Elvino: Juan Diego Florez
Count Rodolfo: Michele Pertusi
Lisa : Jennifer Black
ベッリーニ作のオペラ「夢遊病の女」。Natalie Dessay と Juan Diego Florez のコンビなんで、もうシリーズ前からいろいろと話題づくりに抜け目のないメット。マンハッタンのいたるところに派手なポスター貼りまくり、メット正面には300畳くらいの寸法の垂れ幕(っていうんだろうなあ)で Dessay を躍らせとります。さらにはThe MET Live in HD っつう、高画質ライブ・ビューイングで全世界の映画館で上映しようという強気の勝負。今シーズンのプログラムのなかでも確実に当たるという勝算、強かったんでしょう。
ところがぎっちょん、レビューはさんざんだし、プレミアのカーテンコールではメット史上最大規模(とまで Time Out NYは書いていたと思う)のブーイングが起き、直後にそれが YouTube でさらされるまでに。これもすべては Mary Zimmerman の演出のためか。その YouTube では Dessay が「彼女へのブーイングはもうやめてあげて」というポーズまでしております。嵐のブーイングにさらされた Zimmerman はその後の上演ではカーテンコールにも出れなかったらしい。僕らが見たときにも彼女は出てきませんでした。
でもオペラの不思議なところで、つまらない演出でも感動したりすることもあるし、Dessay や Florez でも波はあるだろうし、いちがいに Zimmerman のせいだけにするのもかわいそうな気がする。特に Dessay は僕らが見た日は良かったように思えますが、初日から数回はあまり良くなかったという評もありました。
で、その舞台。スイスの山村で夢遊病の女が引き起こすお気楽な恋愛騒動を現代劇(そのオペラのリハーサルという設定)に置き換えた時点でかなり無理があるけれど、事前のレビューで思っていたよりは破綻もないように僕には見えました。この恋愛小喜劇を、地味に(よくいえば理性的に、悪く言えば小賢しく)演出しておいて、最後の最後、メットらしい物量作戦、それも「この10分のためだけにここまでのものを準備するかあ」という演出は正直言って、僕は感動した。
Natalie Dessay と Juan Diego Florez のコンビはじめ、他のパートも期待通りの歌でした。特に Michele Pertusi は良い役をとっていることもあるけれど、彼の歌は聞いていてとても楽しかった。このためだけでもチケット代のもとはじゅうぶんいただきました。Natalie Dessay は「かわいい」とか「アイドル」というのとは違うけれど、その存在感はちょっとすごいものがあるし、Juan Diego Florez は僕のような素人が聞いても、なんでこの歳でこんなに安定してうまいのだろうと思った。
ということで「変な演出」ばかりが議論された本作ですが、ファンをこのように怒らせる企画は大事だと思う。METには、ファンのブーイングなど無視して、芸術をこの調子でどんどんラジカル(かなあ?)にしていってもらいたい。
ベートーヴェン:“ああ 心なき人よ”Op.65
ベートーヴェン:七重奏曲Op.20
《休憩》
J.シュトラウスU世:オペレッタ「こうもり」より序曲
R.ジーチンスキー:ウィーン、わが夢の街
J.シュトラウスU世:アンネン・ポルカ
F.レハール:オペレッタ「メリー・ウィドウ」よりヴィリヤの歌
A.バッジーニ:妖精の踊り
J.コズマ:枯葉
J.シュトラウスU世:美しく青きドナウ
J.シュトラウスT世:ラデツキー行進曲
新年のコンサート。ソリストは佐藤しのぶ。ベルリン・フィルの八重奏団。でも選曲はウィーン・フィルみたい。ベルリン・フィルの人たちの鷹揚さというか、主催者側の意向の強さというか、そういうところは若干気になるものの、まあ「新年おめでとう」ということで。楽しいコンサートでした。
3階席正面で見ました。オクテットなので室内楽のコンサートだったらもっと良かったんだろうけれど、でも逆に佐藤ひとりの声がコンサートホールの3階席までしっかりと届き、また8人で「美しく青きドナウ」やら「アンネン・ポルカ」やら、これまたしっかりとホールのうしろのうしろまで届けるんだから立派です。編曲の妙もあるでしょうが、個々人の技能もとんでもないんでしょう。ときどき「どうだまいったか」みたいな演奏もあったけど、まあそれはひとりひとりの「見せ場」なんだし、これも含めて楽しかった。
クラシックに詳しい同僚によると、なかでもホルンのラデク・バボラークは特にすごい人だそうです。1976年生まれ。チェコ・フィルからミュンヘンを経てベルリンへ。ちょっと検索すると日本語でも英語でも出るわ出るわ。ステージ奥のホルンがよく見えるところに座っていたお客さんたちは彼が目当てだったんでしょう。終演後のサイン会もそりゃあ人が集まるよねえ。
というわけで、明るく良いコンサートでした。残念だったのは客の少なさ。たしかにこのホールで八重奏は「商品」としては難しかったかもしれない。でもこんなすごい演奏がこの程度の値段で聞けるんだから、もっと人が入っても良かったかなあと思います。特に中学や高校、大学で吹奏楽などをしている人(の親や教師も)は、無理してでもバボラークの生演奏を聴いたら、それはそれですごく貴重な経験になると思う。……ので、本学の学生さんたちにも宣伝したんですけど、何人かは行きましたでしょうか。