贈ることばにかえて 2015年度

 君たちの代は、3年生からずっとハンナ・アーレントの『人間の条件』を読みましたね。4年生になっても最後まで読み切れませんでしたが、「労働」、「仕事」、「活動」について、自分たちの生き方と重ねながらじっくり議論しました。

 はじめに、レイ・カーツワイルの「シンギュラリティ」に関する文章などを読んで、A.I.時代にどのように生きるのかを真剣に考え、その次にアーレントにたどり着きました。そのせいかな(?)、売り手市場なのに「フツーのシューカツ」を拒絶するメンバーも複数生まれました。

 毎年「ひどい時代になった」みたいなことをここに書くのですが、もうその「ひどさ」に慣れてしまって、いちいち書く気力も起こらなくなっています。世界も混迷をきわめていますが、少なくともこの国は100%没落の一途をたどると思います。すべての矛盾は、次世代にツケとして回ってくるでしょう。

 「今だけ、カネだけ、自分(たち)だけ」で、ツケを次世代に押しつける今の大人たちのあさましさに気がついたのか、今、世界中で若者が立ち上がろうとしています。アメリカでは銃を規制するために、フランスでは哲学の授業を無くさないために、ドイツでは親がスマホばかりしないように、そして日本でも、女性差別や沖縄差別をなくすために、若者が声をあげています。よ~く耳をすませば、君たちが「おかしい!」、「このままではいけない!」と感じた問題について、同じように感じて立ち上がっている仲間たちの声がきこえます。

 4月から君たちは「仕事」=「労働」の世界に入りますね。この世知辛い世の中で、何とかしのいで生き残らなければなりません。それはしっかりやってください。いつも言いますが、それで行き詰まったり、お腹がすいたら、自棄を起こさずに、いつでも大学に来てください。昼飯ぐらいはいつでもおごります。

 けれども、労働界にどっぷりつかっても、「人間であること」は常に忘れないでください。「人間」としての「活動」の領域を確保してください。このグローバルな晩期資本主義の世界では、用心していないと、いつの間にか人間であることを忘れて、「今だけ、カネだけ、自分(たち)だけ」のあさましい存在になってしまいますから。

 実は、君たちの代には教えられた事が多くありました。人生や世界の絶望的な現実を十分に理解しつつも、しかし君たちは可能な限り仲間と集い、議論をし、人間であろうと努力しました。正規のゼミの時間以外に、君たちは一番多く仲間と集った代だと思います。財政面からゼミ合宿で海外には行けませんでしたが、限界や絶望の中でも最善を尽くす=生きるという姿勢を私に教えてくれました。この場を借りて深くお礼を伝えます。

 君たちの前途を心から祝福します。

2019年1月17日
佐々木寛