第11回 吉田民人の社会情報学
〜新しい学問の創造〜
(小宮山智志)
目次
1)「辞書づくり」・「概念づくり」 あるいは第4回「定義をしつづけることに意味・意義はあるか」再考
あるいは第1回「情報概念の拡張」補足
2)吉田氏の情報の定義のバリエーションと社会情報学
3)参考図書
1) 「辞書づくり」・「概念づくり」
あるいは第4回「定義をしつづけることに意味・意義はあるか」再考
あるいは第1回「情報概念の拡張」補足
第4回講義において:越智氏「定義をしつづけることに意味・意義はあるか」
定義すること:考えることをやめること
「我々の認識は今の社会の価値のみでしか認識できない」
「“情報文化”学部は定義すべきでない。カリキュラム固定化するから。」 参照:第10回「世界」の話〜近代の「価値」を自覚し、相対化するために呪術の「世界」を展望した。
第1回講義において:市川氏 情報・文化・文明等、辞書や文献の定義を紹介。
考えをやめることなのか? そうではない。
辞書づくり・ 概念(コンセプト)づくり
× 文献・講義で紹介された定義を鵜呑みにする。=考えをやめること。
〇 自分の研究(価値)に必要な概念を創造するために既存の定義を利用する。=考えること。
=自分のコミットしている価値を自覚すること=価値自由への第1歩(価値中立ではない!)
辞書づくり
:日常言語ないし自然言語の用例を集め、共通部分をえぐり出して定義すること。
概念(コンセプト)づくり
:新しいコンセプトを創造し、それに記号表現を与えること。
「研究」では新しいコンセプトが必要になることがある。新しい記号内容に新しい記号表現を決める。
(研究:新しい知見を創造すること)
参照 第10回:我々は<世界>の総てを認識することはできない。
→「ある研究」では、その研究目的(価値)に従って「何を地とし、何を図として認識している」
のか、明示する。自然言語ないし日常言語では表わせない場合、新しいコンセプトが必要に
なる(新しい認識=実践を生み出すのが研究なので、新しいコンセプトが必要になる)。
記号内容は新しいコンセプトだが、記号表記は自然言語ないし日常言語を借りる。
→概念の拡張
第1回 市川氏「情報概念の拡張」の例を紹介
“情報文化”学部 の“情報文化”の定義について
× 文献・各講義で紹介された定義を覚え、それ以外の可能性を考えない。
参照 第4回 教義の例
〇 自分の研究の価値を自覚し、明示するためにコンセプトづくりをする。
越智氏「語源でごまかすのはよくない」といいつつ“definision”の語源で定義の話をしたことについて
〜小宮山の蛇足〜言語の恣意性
吉田氏はどのような研究目的で「情報」の概念を拡張したのか。各自のコンセプトづくりの参考
のために紹介する(暗記・覚えていただくために紹介するのではない)。
2)吉田氏の情報の定義のバリエーション と社会情報学
社会科学に“法則”はあるのだろうか? という問題関心
物質=エネルギーの空間の秩序原理(法則)と記号の集合によって
制御されている空間(例:制度・法律・慣習・習慣・エチケット・時間割等
に従って私とあなたはここにいる。遺伝子の配列によってたんぱく質が作ら
れる等)の秩序原理は異なるのではないかという関心
物質=エネルギーに対抗するコンセプトをつくる
遺伝子から制度・規範・法律・慣習・習慣・エチケット・時間割・暗黙の了解まで
これらすべてを一つのコンセプトで表現したい。
物質=エネルギー科学 vs 〇〇科学
遺伝“情報”ということば 国語辞書の情報概念のエッセンス
伝達される何か
認識される何か
意思決定に影響を与える何か
遺伝“情報”という用語法
辞書の定義を絶対視する〜「遺伝情報なんて使い方は間違っている」
自然言語の「情報」概念を拡張する。 自然言語の「情報」概念を拡張して物質=エネルギーと並ぶ根本概念にする。
伝達するなにか→貯蔵・変換も含める。
データベースに貯蔵する・大脳に貯蔵する・意思決定のために変換する
(伝達されなくても情報)
認識される何か→指令・評価も含める。
単用・耐用情報をどちらも情報と呼ぶ。
意思決定に影響を与える何か→現実態・可能態ともに情報と呼ぶ。
(さらに多くの争点がある)
情報の定義
最広義:パタン(差異)一般
広義:任意の進化段階の記号集合一般
記号進化
シグナル記号・シンボル記号
情報によってになわれている秩序〜この情報を“プログラム”と呼ぶ
(もちろんコンピュータ用語や日常言語の“プログラム”というコンセプトではない)
〇〇科学→プログラム解明科学 言語の機能
認知・評価・指令
「世界」を認知する・評価する・創造する。
認識科学 対象を記述・説明・予測する科学
設計科学 対象のありたい姿やあるべき姿を計画・説明・評価する科学
認識科学としての法則定立科学に対して、設計科学としてのプログラム解明科学
プログラム科学の5つの基本命題
プログラム集合それ自体の解明
プログラム集合の作動過程の解明
プログラム集合の作動結果の解明
プログラム集合のライフサイクル(生成・維持・変容・消滅)の解明
プログラムの相互連関の解明
1つの学問としての社会情報学
[高度]情報社会の研究 vs 社会一般の研究
認知情報の研究 vs 情報機能一般の研究
情報伝達の研究 vs 情報処理一般の研究
科学技術化された情報と情報処理の研究 vs 情報・情報処理一般の研究
学際的研究 vs 一つの学問としての研究
法則定立科学 vs プログラム解明科学
3)参考図書
吉田民人, 鈴木正仁編著 1995 「システム・情報・自己組織性―知の情報論的転回―」
『自己組織性とはなにか : 21世紀の学問論にむけて』 ミネルヴア書房 6ページ〜130ページ
木下富雄, 吉田民人編 1994 「社会情報学の構想とその背景―新しいDisciplineをめざして」
『記号と情報の行動科学』 福村出版 325ページ〜350ページ
比較的読みやすく、手に入りやすいものを紹介しておきました。[吉田, 鈴木 1995]の6ページ
〜87ページは講演の内容が収録されたものなので大変読みやすく、お勧めです。しかし「吉田
理論」は日進月歩でバージョンアップされています。5年前のバージョンと現在のバージョンの
差分は小さくありません。興味のある方は最新のものを紹介致します(幸いにも本学の図書館に
あるものもあります)。
(掲載が、2時間30分遅れたこと、申し訳ありませんでした。
なお講義に際、若干、内容を変更する可能性があります。了承してください。)
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